最新作の評判が散々だった劇作家のジェームズ・バリ。元女優の妻とも噛み合わない日々に、公園で出会った4人兄弟とその母シルヴィア。子ども達の前で寸劇を演じてみせるジェームズだが、笑い転げる家族の中で三男のピーターだけがさめている。父を亡くした時の心の痛みから、一人心を閉ざしているのだった。
少年の心に空想の翼を持つ劇作家…。ジョニー・デップ、はまり役。
子ども達と海賊ごっこや西部劇ごっこをするのだけれど、「遊んであげている」にならず、彼自身の目が楽しさに輝いている。
心の通わない妻を見つめる寂しいまなざし。
「信じることで何でも出来る」と子ども達に語っていたのに、「信じるだけではどうにもならない」ことに直面してしまった時の哀しい瞳。
ジョニー・デップという人は外見の美貌ということでは、欠点もある人だ。
ところが、それをすべて帳消しにして尚あまりある魅力をたたえているのが、彼の瞳だ。
「耳に響くは君の歌声」で、無言のまま彼が涙を一筋流しただけで、私は心がふるえてしまった。
その彼のまなざしの豊かさが、この役に命を吹き込んでいる。
監督は、このバリを賞賛するだけの視点で描いていない。
子どもの心を失わないこと、信じる心の力を美しく描く一方、自分のそばにいる妻メアリーの心に思いをはせることができないために傷つけてしまうバリの姿もきちんと描いている。
若干、メアリーよりもバリ寄りに描かれてはいるが、メアリーが単なる無理解な悪妻にはなっていない。
バリに冷たく当たるシルヴィアの母も、かなり意地悪なおばあさん…ではあるが、終盤で一瞬彼女の中にある温かいものがあふれ出てくるシーンで彼女もすくい上げられている。
この話の主軸とはずれている、そんなシーンですごく胸が熱くなった。
勿論、主軸である子ども達(特にピーター)とバリの心の通い合い、シルヴィアへの思いなどにも涙してしまったのですが…。
映像も音楽も美しく、見たあとに温かいものが心にあふれてくる映画でした。