初めて見たウルグアイ映画。この映画の
公式サイトによると、今まで制作されたウルグアイ映画は約60本というのだから初めてでも当たり前。
工員3人だけのちーさな靴下工場。初老の経営者ハコボは毎朝判で押したように暗いうちからポンコツ車に乗って家を出る。途中、バールで朝食をとって工場に着くと、中年の女性工員マルタがハコボの到着を待っている。「おはよう」「おはようございます、ハコボさん」
シャッターを開け、マルタは作業服に着替え、ハコボが機械の電源を入れて机に向かうあたりでマルタがお茶をもってくる。
夜、シャッターを閉めるハコボ。マルタは右へ、ハコボは左へ。「またあした」「またあした、ハコボさん」
ある日、ハコボの亡母の墓石の建立式にブラジルから弟のエルマンが来ることになった。
いろいろ事情があるらしい。
ハコボは弟の滞在中、妻の役を演じてくれとマルタに頼む。
エルマンもブラジルで靴下工場を営んでいるのだけれど、どうも兄よりもずいぶん羽振りがよさそう。
マルタへの態度も笑いかけも話しかけも必要以上にしない兄に比べれば、ずっと如才ない。
そんなエルマンの冗談に声を出して笑うマルタ。
ああ、あらすじだけで長くなってしまった。
地味な中年(~初老)の男女3人の映画で、エルマンが訪れる前、訪問中、帰国後の数日間が淡々と描かれているだけ。
でも、ディテールの積み重ねが細やかで、そこに輝きのある映画です。
輝きっていっても青春のキラキラまぶしい輝きとは別。
たとえば、ベッド。
事前の打ち合わせのためにハコボのマンションを訪れたマルタ。
部屋を案内されて、寝室にはいるとハコボのベッドの隣にサイドテーブルを挟んでビニールのかけられた新しいベッドがある。
ハコボがエルマンを空港へ迎えに行く間に、いかにも男の一人暮らし風で殺風景だったマンションをマルタが片づけておいたようなのだけど、ハコボが帰宅して寝室にはいると二つのベッドはいかにも夫婦の寝室らしくぴったりくっつけてある。
夜、マルタが風呂から上がって寝室にはいると、ベッドの間は離されてハコボは背を向けて就寝中。
その後、世話になったからというエルマンの申し出で海辺のリゾート地に3人で出かけるのですが、ホテルにチェックインしてベルボーイが部屋に案内するという段になって、ハコボはフロントにベッドを離しておいてくれとこっそり言おうとするけど、うまくいかない。
結局、長身の身を丸めて部屋のソファで寝るハコボ。
こういう細かいエピソードが色々と詰まっているのです。
その一つ一つがぎくしゃくした兄弟、そこにはさまってしまった赤の他人のとにかく実直な女性、この3人の関係の変容とそれぞれの内面の変容を描き出していきます。
解釈を見る人にゆだねる終わらせ方も含め、結構好きです、この映画。